カテゴリ: 「こころのお知らせけいじばん」

こころのお知らせ掲示板「朝型、夜型」

体内時計のリズムが早寝早起きで午前中に調子のよい朝型の人と、遅寝遅起きで遅い時間に調子のよい夜型の人。正確には、朝型と夜型のどちらかのタイプにきっぱり分かれるものではなく、その二つの間のタイプも、ゆるやかに分布しています。
 朝型か夜型かは、ある程度は生まれながらに決まっており、大きな個人差を示します。朝型・夜型のタイプにより、しっかり活動できる時間帯にはかなり差が出るのです。例えば、朝型の人は夜遅い時間には夜型の人よりもはるかに強い眠気を感じます。これは、すぐに変えられる体質ではありません。
 ただし、だれでも年齢により多少変化することがわかっています。思春期以前は朝型傾向ですが、思春期以降は急速に夜型化します。この思春期以降の夜型化はヒト以外の哺乳類でも認められ、生理的な変化によると言われています。この急速な夜型化は20歳前後でピークを迎え、以降は徐々に朝型化を示します。
 さて、自然と朝型のリズムを持つ子ども。最近の子どもの睡眠について考えたいと思います。
 近年、日本人の2割以上は夜勤を伴う交代勤務をしており、社会全体が夜間も活動するようになっています。日本人の夜間の活動量、睡眠時間減少は国際的にもトップレベルです。大人が夜に働くようになり、家庭の子どももその影響を受けています。日本の子どもの就寝時刻は国際比較で50から90分遅いと言われています。ちなみに、起床時刻に差はありません。
 しかし、子どもは大人よりも朝型のリズムを持つので、大人に合わせるのは無理が生じます。夜更かしの生活では朝食を食べないことにもつながり、さらに朝食を食べないと日中の活動に支障が出ます。園や学校で、集中力が続かなくなってしまいます。実際に、「キレやすい子」の様子を詳しく調べると、単に寝不足や朝食を食べていない空腹が原因だったということも多いようです。
 就寝時刻と健康の関係を、社会全体で見直すことが必要です。

 
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「こころのお知らせけいじばん」は
精神科専門医いわもとあきこさんによる連載です。

こころのお知らせけいじばん「性別違和・LGBT」

 まずお伝えしたいのは、LGBTは精神疾患ではないということです。それによって苦悩の著しい人や、身体治療を求める人が、医療機関を訪れるのです。精神科では近年、適切に支援するため理解を深めようと動いており、その目的での情報発信です。教育の分野も同じで、2016年には「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応などの実施ついて(教職員向け)という研修資料を文部科学省が出しています。

 2018年の民間企業による調査では、8.9%がLGBTに該当すると答えています。レズビアン、ゲイ、バイセクシャルは好きになる性(性的指向)を表していますが、トランスジェンダーは身体的性別とこころの性別(性自認)が一致しない人を表しています。戸籍上の性別は男性と女性の二つですが、性自認にはグラデーションがあり、男性から女性への自己認識は連続的であると言われています。また、中性や無性を訴える人もいます。
 
 違和感は物心ついたときから、という場合が多いようです。しかし幼いころの症状は、のちに減ることがあります。性自認は揺らぐこともあり、自認する性別が変わることもあります。治療や相談の現場では、精神的に不調になる時期は2つあると言われます。ひとつは12歳前後で、第二次性徴により体やこころが変化し、自認する性別とのギャップに混乱する時期です。同じ時期に性自認に合わない中学校の制服や規則で悩むことも重なり、不登校などにつながることもあります。もうひとつは30代頃で、家庭や職場から結婚を期待されることで、カミングアウトの問題もあり深刻になる時期です。
 
 「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」が実施した「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013)」では日本のLGBTの大半が学校生活でいじめを受けたりLGBTに関してからかいをうけたりした経験を持つようです。

 このような経緯から、自己否定や孤立につながりやすくなります。ありのままの性自認を受け止めてもらえることが必要です。親が「育て方を間違った」と悩む場合もありますが、育て方によるものではなく、世界中に一定の割合で存在するのです。家族や周囲がありのままに受け止めるだけで、自尊心が驚くほど改善することはよくあります。さらに、同じような思いを持つ仲間やロールモデルに出会い、アイデンティティを確立することも必要です。インターネットで多様な性自認のあり方を知ることや、適切な当事者会で仲間をみつけ思いを分かち合うことも有効です。
 
 
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こころのお知らせ掲示板「インターネット、ゲームへの依存」

コロナ禍もありしょうがない面もありますが、多くの子どもが長時間インターネットやゲームを使用しています。
 
令和元年度の調査では、青少年のインターネットの一日平均使用時間は、高校生男子268分・高校生女子229分、中学生男子186分・中学生女子167分、小学生男子141分・小学生女子117分でした。青少年がスマホで利用するコンテンツは、動画、SNS、ゲームが上位3つで7割以上、次が音楽で7割弱でした。
コロナ禍による生活変化もあり、令和2年度以降はもっと増えていると思われます。
 
しかしご存じのように過度の使用には注意が必要です。
ゲームやインターネットのために学業(職業)に支障が出ている状態が続いており、自分でコントロールできないなら、依存症と言えるでしょう。近年、青少年のおよそ10人に1人は依存が疑われる状態と言われています。
 
孤独である、ほかの趣味がない、学校でうまくいっていないなどの要因や、衝動的、または根を詰めやすいなどの性格傾向・・など依存の起こりやすい状況もわかってきています。出来事でいえば学校でのいじめ、受験などのプレッシャー、家庭不和などが背景にある場合も多いです。
 一方で、学校でうまくいっている、自尊心が高い、行動を制御できる・・などは依存がおこりにくい要因です。
 
 では、家庭での対策は、どうすればよいのでしょうか?
 すでに依存的になっている場合、本人のゲーム時間を減らす動機づけが肝心です。しかし、これが案外難しいようです。さらに、依存的になっている場合は、単に時間を決めたり制限をかけたりすることでは、あまりうまくいかないことが多いようです。
 そこで、別の活動に少しでも興味を移していく、という方法があります。部活・習い事・塾など、ゲームと切り離した楽しい時間を作り、徐々にその時間を長くするよう置き換えていく・・などです。
 
 現在、「ゲーム障害」「インターネット・ゲーム障害」として診療を行っている医療機関もあります。外来診療だけでなく、入院治療、デイケア、家族会などもあります。しかしそのような医療機関はまだ数が少ないのが現状です。依存も予防に越したことはなく、適切使用を意識することが大切です。
 
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精神科専門医いわもとあきこさんによる連載です。

こころのお知らせけいじばん「発達障害者支援センター」

 全国におよそ100の発達障害者支援センターがあります。
 自閉症、アスペルガー症候群、その他の発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害など、発達障害およびその疑いのある人を支援します。原則として、すべての年齢を対象としており(センターにより、小児期のみ、成人のみを対象とする場合もあります)、現在多くの成人が相談に訪れています。医療機関と違って、家族のみの相談を行うこともあります。相談の内容は「発達障害ではないか」「支援機関や診断できる医療機関を知りたい」ということから、進路や就労に関することまで、多岐にわたります。さらに、発達障害の当事者が親になった際の子育ての相談、触法など重大な問題を抱えている場合の相談、薬物・ギャンブル・ゲームなど依存の相談など、複数の機関が関与するような複雑な相談も増えているようです。
 小児期に受診し、いったん診療を終えたとしても、ライフステージに応じて再度医療や相談が必要になることがあります。特別支援教育の案内、就労支援センターや公共職業安定所への紹介、障害者手帳や年金など福祉制度の案内、併存疾患治療のための紹介・・・年齢を問わず、センターを経由して問題を整理し、必要な支援や機関の案内を受けることが出来ます。
 
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こころのお知らせけいじばん「解離2」

前回は、解離性運動障害についてお伝えしましたが、今回は解離性健忘や解離性同一性障害です。「別の人格が出るけれども自分では覚えていない」というと極端でドラマのようですが・・。
軽い解離ならだれにでも経験があるものです。考え事をしながら家のカギを閉め、あとでハッとしてカギを閉めたかどうかが思い出せないという経験は解離の一種です。また、ロックコンサートでの観客の熱狂状態、トランス状態などもあてはまります。これらは生活には支障をきたさないので病気ではありません。
では、病的な解離とは・・。
ひとつは健忘です。大人になってから子どもの頃のことを思い出そうとしても「〇歳までの記憶がない」という人は、もしかすると子ども時代、過度なストレスがかかった時期に解離を起こしていたのかもしれません。虐待、いじめ、そして長期的な医学的治療なども、子どもにとって過度のストレスになり得ます。それが解離(この場合解離性健忘)につながることがあるのです。
また、例えば家庭内で虐待を受けている子どもの場合、虐待は繰り返されることが多いため、子どもは何度も同じような恐ろしい経験をします。毎回恐ろしい経験をする中で、恐怖感や辛い感情を感じないようにするため、無意識のうちに解離し、現実感を失っていくのです。加害者が近づく足音などで解離し始めることもあります。そして身体から意識を切り離し、「幽体離脱をして上から見ている」ような感覚になることもあります。
身体から自分を切り離すことによって、恐ろしい経験しているのは「自分」ではなく、「自分以外の誰か」の経験とすることで、苦痛を感じなくなり、恐ろしい経験をしても生き延びることが可能となるのです。重くなってくると現実感を喪失し、自分が経験したことが現実かどうかわからなくなる症状もあります。
このような症状を繰り返すと、結果として解離性同一性障害に至ることがあります。人格が分裂する症状です。一つの身体を複数の人格が共有する状態となるため、別の人格のときには記憶がつながらなくなることもあります。解離性同一性障害の子どもの人格のうち一人の子が話した内容を、別の人格のときに「そんなことは言っていない」など言い、嘘をつく子と思われるかもしれません。また、解離が重くなると耳元で常に自分ではない別の人が話しかける、などの症状が出る場合もあります。これはと統合失調症の幻聴とは異なります。
解離は子供に多いのですが、解離という手段で過度のストレスをやり過ごしてきた人は、大人になっても解離し続けることがあります。
海外のデータでは解離性同一性障害は100人に1~3人いるとも言われます。周囲が解離という症状に気づかず、嘘などの「問題行動」と捉えると良い方向に行きません。家族や周囲も、専門家に相談しながら症状を持つ子どもに安心を提供できれば何よりです。時間がかかっても人間への不信感を減らし、安全な場で、解離以外の手段で困難をやり過ごせるように支援が必要です。

参考文献:少年院在院者に垣間見る「解離」 中島幸子 刑政 第131巻第8号
     解離症学 田中究 精神科治療学 vol.35

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こころのお知らせけいじばん「解離」

ストレスが原因で歩けなくなる声が出なくなるなんて、あるの?

にわかには信じがたい話ですが、嘘や仮病ではなくそういう症状が出ることが実際にあるのです。
私は学生時代、アルプスの少女ハイジというアニメを例に、ベテラン講師からこの病気について教わりました。

あの話の中で、クララはなぜか歩くことができず車イスに乗っています。
はじめは家族が遠くにいて親しい友達もなく、さみしそうな少女でした。
そこにペーターやハイジがやってきて友達になり、外で毎日楽しく遊んでいると、
いつの間にかクララも活発になり最後は自然と歩けるようになっている、という筋道です。
まさにこれが解離性運動障害の経過なのです。

クララは決して「仮病で周囲の気を引いてやる」という性格ではなく、
素直で自分の気持ちを抑圧しがちな少女です。
家族と離れたさみしさも押さえて我慢していたのでしょう。
そのうち、足自体に異常はないのに歩けなくなってしまいます。
そこに友達ができて思いっきり遊ぶことができ、よりどころができたのです。
徐々にストレスも緩和され、対処能力も成長して、年齢相応の活動性を取り戻し、最後は歩けるようになったのです。

現代の解離の治療も、基本はこれと同じです。
ストレスを緩和するよう環境を調整するのがメインです。
家族や学校などに関わり方を助言するだけでも良くなることがあります。
解離性運動障害は年齢が低いほど出やすいのですが、成人でも出ることがあります。
成人の場合は女性に多いといわれています。

最後に、同じ「解離」でも「別の人格が出てしまう」という解離もあります。
これについては、また次回に・・・。

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