こころのお知らせけいじばん「解離2」
前回は、解離性運動障害についてお伝えしましたが、今回は解離性健忘や解離性同一性障害です。「別の人格が出るけれども自分では覚えていない」というと極端でドラマのようですが・・。
軽い解離ならだれにでも経験があるものです。考え事をしながら家のカギを閉め、あとでハッとしてカギを閉めたかどうかが思い出せないという経験は解離の一種です。また、ロックコンサートでの観客の熱狂状態、トランス状態などもあてはまります。これらは生活には支障をきたさないので病気ではありません。
では、病的な解離とは・・。
ひとつは健忘です。大人になってから子どもの頃のことを思い出そうとしても「〇歳までの記憶がない」という人は、もしかすると子ども時代、過度なストレスがかかった時期に解離を起こしていたのかもしれません。虐待、いじめ、そして長期的な医学的治療なども、子どもにとって過度のストレスになり得ます。それが解離(この場合解離性健忘)につながることがあるのです。
また、例えば家庭内で虐待を受けている子どもの場合、虐待は繰り返されることが多いため、子どもは何度も同じような恐ろしい経験をします。毎回恐ろしい経験をする中で、恐怖感や辛い感情を感じないようにするため、無意識のうちに解離し、現実感を失っていくのです。加害者が近づく足音などで解離し始めることもあります。そして身体から意識を切り離し、「幽体離脱をして上から見ている」ような感覚になることもあります。
身体から自分を切り離すことによって、恐ろしい経験しているのは「自分」ではなく、「自分以外の誰か」の経験とすることで、苦痛を感じなくなり、恐ろしい経験をしても生き延びることが可能となるのです。重くなってくると現実感を喪失し、自分が経験したことが現実かどうかわからなくなる症状もあります。
このような症状を繰り返すと、結果として解離性同一性障害に至ることがあります。人格が分裂する症状です。一つの身体を複数の人格が共有する状態となるため、別の人格のときには記憶がつながらなくなることもあります。解離性同一性障害の子どもの人格のうち一人の子が話した内容を、別の人格のときに「そんなことは言っていない」など言い、嘘をつく子と思われるかもしれません。また、解離が重くなると耳元で常に自分ではない別の人が話しかける、などの症状が出る場合もあります。これはと統合失調症の幻聴とは異なります。
解離は子供に多いのですが、解離という手段で過度のストレスをやり過ごしてきた人は、大人になっても解離し続けることがあります。
海外のデータでは解離性同一性障害は100人に1~3人いるとも言われます。周囲が解離という症状に気づかず、嘘などの「問題行動」と捉えると良い方向に行きません。家族や周囲も、専門家に相談しながら症状を持つ子どもに安心を提供できれば何よりです。時間がかかっても人間への不信感を減らし、安全な場で、解離以外の手段で困難をやり過ごせるように支援が必要です。
参考文献:少年院在院者に垣間見る「解離」 中島幸子 刑政 第131巻第8号
解離症学 田中究 精神科治療学 vol.35
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「こころのお知らせけいじばん」は
精神科専門医いわもとあきこさんによる連載です。